情緒的に無力を嘆くことと、原因を知ったうえで無力を認めることの違いを見ていきます。
この違いは重要です。
前者はいつまでしても回復せず、後者は順調に回復の軌道に乗ります。
1.情緒的に無力を認めても自己憐憫に陥るだけ
のっけから厳しいことを書きますが「私たち無力だよね〜」などと言うセリフを何百回繰り返しても無力を真に認めたことにはなりません。
なぜでしょうか?
それは真に無力を認めたなら認めたなりの効果が現れるはずだからです。
「私たち無力だよね〜」というセリフを何百回繰り返しても回復の効果は現れず、せいぜい自己憐憫に陥るのが関の山です。
2.無力の原因は依存症回路が脳の報酬系に出来たこと
では効果が上がる無力の認め方とはどのようなものでしょうか?
それは「なぜ無力なのか?」についての原因を知ることです。
依存症回路というものが脳の報酬系に出来たことが原因です。
この依存症回路から強迫観念と渇望現象が出てきます。
健康な脳は報酬系が本能に対してアクセルを踏む役割を、報酬系の周りに広がっている前頭葉が本能に対してブレーキを踏む役割を果たします。
しかしいったん報酬系に依存症回路ができてしまうと、報酬系は本能に対してアクセル踏みっぱなしの状態になります。
まるで暴走機関車のようです。
こうなってしまうと本能に対してブレーキを踏む役割を果たすべき理性(前頭葉)は無力化されてしまいます。
これが私たちが強迫観念と渇望現象を特徴とする依存症に対して無力である真の原因なのです。
私たちが無力なのは意志が弱いからでもなく、人や環境に問題があったせいではありません。
ましてや生育歴に原因があったわけでもないのです。
この点でアダルトチルドレンの人々は気をつける必要があります。
3.無力の原因を理解しないと12ステップを理解できない
闇雲にスリップしないように努力しても効果はありません。
定期的にスリップし、「今度こそスリップしないように頑張る」と誓ったとしても効果は限定的です。
なぜでしょうか?それはご自分がなぜ依存症に対して無力なのかの原因を明確に把握していないからです。
もしくはわかったつもりになってはいるが、それが行動に現れていないのです。
依存症回路が原因で自分が無力化されていることが本当にわかった人が、どうしてスリップしないように頑張るでしょうか?
ありえない話です。
本当に無力が分かっていたら、正しい解決策に取り組みます。
4.シラフを維持するために無力の原因を知っていることが必要
上記のような説明を聞くと中には「ハイハイ、分かった、分かった。でもね、そんな小難しい説明を聞いてもなんにもならないよ」と言われる方もおられるかもしれません。
しかしそうではないのです。
なぜならこの仕組みを理解することが依存症やアダルトチルドレン&共依存症から回復するための前提になるからです。
生活習慣病という病気がありますが、これは不健康な生活習慣を続けた結果、罹患してしまう病気の総称です。
同じように依存症・アダルトチルドレン・共依存症は不健全な思考習慣を続けた結果、罹患する病気なのです。
なぜ嗜癖行動に走るのかと言えば、それは不快感情から逃れるためです。
ではなぜ不快感情から逃れたいと思うほどに感情は暴走したのでしょうか?
それは本能が傷ついたからです。
人間は本能が傷つくと感情が暴走するようにできているのです。
ではなぜ本能は傷ついたのでしょうか?
ここがポイントです。
そしてこの部分が12ステッププログラムが霊的プログラムと言われる所以であり、他のカウンセリングと異なる点です。
それは本能が傷ついたのは自分自身の性格上の欠点が原因だったのです。
性格上の欠点には四つあり(利己的・不正直・恐れ・配慮の欠如)、これらの欠点が様々に組み合わさって、その人なりの行動パターンが形作られます。
ですから嗜癖行動に走らないためには感情が暴走しないようにする必要があります。
感情が暴走しないようにするためには本能が傷つかないようにする必要があります。
そして本能が傷つかないためには自分自身の古い行動パターンを変える必要があるのです。
これが12ステッププログラムの持っている構造です。
5.無力の原因を知っていることが人生の土台となる
このような説明を聞くと中には「な〜んだ。私に罪はないのか?」と言う方もおられるかもしれません。
しかし厳密に言えば、罪なしとは言えません。
それは嗜癖行為を繰り返すことよって脳の報酬系に依存症回路が出来上がるからです。
そもそも嗜癖行為を延々と繰り返さなければ依存症回路もできなかったのです。
その意味では依存症になった責任は自分自身にあると言えます。
12ステッププログラムが教えることはこれからの私たちの人生の基礎になります。
①トラブルが起きても、それを他人のせいにしない
一般の人はトラブルが起きると反射的に相手に問題があると考えます。
しかし12ステップ修了者は決してそのようには考えません。
「他人は私を傷つけることができない」のだから、問題は必ず自分の中にあると考え、日々の棚卸しをします。
そうすると四つの欠点のうちのどれかに当てはまります。
自分の側に過ちや落ち度が何もなかったとしても、それでも「もっと配慮を充実させるべきではなかったのか?」という問いにはイエスと答えざるを得ません。
12ステップ修了者にとって「幸せは自分持ち」です。
②無力を認めることは他者への肯定的配慮と共感的理解の前提
自分自身の無力に対して「仕方ないことだったのだ」と受け入れることができている人は他者に対しても同様な態度を取ります。
私もこの人と同じ立場だったら、同じように感じただろうと考えます(肯定的配慮)
また相手に対して無条件に共感的理解を持ちます。
これらの前提にあるのは自分の無力を認めているということです。
③自己一致した人生を歩む
本能が傷ついたのは恐れが動機となって不正直な対応をし、それを見ていたもう一人の自分、すなわち自分自身が公平なジャッジを下したからでした。
だから私達はこれからは不正直な行動をしないと決めました。
これが自己一致しているということです。
世の中の人は利害関係にとらわれて心ならずも不本意な対応をすることがままあります。
しかし依存症者にとってはこれは自殺行為です。
このような対応をすれば「スリップまであと少し」と覚悟しなければなりません。
自己一致と言ってもそれはわがまま放題に自分の思ったことをそのままぶっ放すということではありません。
相手に敬意をもって接することに全力を尽くすときに「人が怖い」という人への恐れは自分の中から締め出されてしまいます。
人への恐れが締め出されれば不正直な対応に陥ることもなくなります。
この不正直な対応こそが自己一致を妨げる最大のものなので、回復した依存症者やアダルトチルドレン&共依存症者は期せずして自己一致した人生を歩むことができるようになります。
この生き方は真に平安な人生であり、生きるのが楽な人生です。


◎回復と平安を祈っています。