回復のための三つのコマの二つ目は「解決は何か」と「解決策は何か」を理解することです。
解決は「自分を超えた大きな力」であり、解決策は「共同体から得られる助けと霊的目覚め」です。
では霊的目覚めとは何でしょうか?
ありのパパの体験からご説明します。
1.霊的体験
ありのパパは依存症からの回復を目指す中間施設と呼ばれるところで12ステッププログラムの勉強を始める何ヶ月か前に霊的体験をしました。
ある日、朝起きるとなんか変なのです。
普段はノイズが心の耳に入ってくる感じなのですが、まるでノイズキャンセルイヤホンを付けたように心の耳に雑音が全く入ってこないのです。
そして予定表に書いたタスクを全部片付けることができるようになりました。
あまりにも心が静かなので「自分はどうかしたのではないか?」とさえ考えました。
しかし暫くして気づきました。
それは「これが12ステップが約束する心の平安というものではないか」ということです。
しかし段々とこの体験は失われていました。
与えられた理由も分かりませんでしたので、それを保持する方法も知りませんでした。
それでただ無くなっていくのを為す統べなく見つめるだけでした。
霊的体験が与えられたときは「これでもうわざわざ東京の中間施設まで行く必要はなくなったのではないか?」などと思いあがったことを考えていたのですが、実際に学びに東京に行く頃には霊的体験は綺麗サッパリ失われてしまい、まさに青菜に塩状態でした。
勉強中に講師に「なぜ失われたのでしょうか?」とお伺いしたことがありました。
そうすると開口一番「もしありのパパさんが霊的体験を持ったままだと、誰の助けにもなることはないでしょう。しかし霊的体験を失ってコテンパンにやられたうえで、ここで12ステップを学んだあとに霊的に目覚めるなら、その体験は多くの仲間にとって参考になり、慰めと励ましになるでしょう」と明快にお答えになられました。
根性が曲がっているありのパパは内心「やっぱり中間施設の職員ともなると口がうまいな」と思うところもありました。
しかしその言葉をそのまま神の意志であると受け入れました。
この経験のおかげで12ステッププログラムに取り組む目的は「霊的に目覚める」ためであると明確に目標を立てることが出来ました。
一瞬足りとも、その目的と目標から目をそらすことはありませんでした。
考えているふりをして居眠りをしていた時以外は(笑)。
霊的体験のメリットとデメリット
霊的体験は何が何やら分からぬ間にバァ〜と与えられます。
そのインパクトは凄まじく、「人生が変わった!」という強い確信をもつことができます。
しかしその一方で感情的な高揚感はいつかは下がる時が来ます。
もし上がったままなら精神的病気です。
そして訳がわからない間に与えられてしまいますから、どうしたらその状態を維持できるのかを知らないとあたふたします。
2.霊的に目覚める
ありのパパはステップ5を踏んだあとで霊的に目覚める経験をしました。
ステップ5のシェアリング・パートナーである「もう一人の人」に言われた言葉が転機となりました。
「ありのパパさんの棚卸しを聞いているとワンパターンですね。人を恐れて不正直な対応をし、不正直な対応が原因となって人々との間にトラブルが起きる。そのトラブルが起きた人々を自分の側に落ち度があるにもかかわらず一方的に恨んでいる。これは極めて利己的な生き方と言えないでしょうか」
普段こんなことを言われたら、とても受け入れることは出来ないかもしれませんが、100項目の棚卸表を見てもらったあとでは「その通りでございます」とお腹にストンと落ちました。
そのときに考えたことは「こんなに明々白々に自分の人生を支配していたカラクリが分かったら、自分の人生は変わらざるを得ない。変わらないと考えるほうが難しい」ということでした。
棚卸表を見てもらった部屋の窓からは、雨が上がったばかりの住宅街の風景が目に飛び込んできました。
とても生命力に溢れているように感じられました。
「私の人生もこれからこのようになるんだ!」と感じたのを今でも覚えています。
3.霊的に目覚めるとはどういうことか?
霊的に目覚めることと霊的体験は本質において同一であり、現れが異なるだけです。
霊的に目覚めるとは、回復するのに充分な人格の変化を指しています。
では回復するのに充分な変化とは何かと言えば、それは要するに物の見方が変わることです。
霊的に目覚める前は、悪いのは全部他人でした。
しかし霊的に目覚めたあと、幸せは自分持ちであり、問題は全部自分の側にあったと気づくことです。
これは「そのつもり」とか「無理やりそう考える」ということでは不十分であり、心底そのことに気づくということです。
4.どうやって霊的に目覚め続けるか?
霊的に目覚めた状態を維持するのは容易です。
なぜなら霊的に目覚めるためにやったことをやり続ければいいだけだからです。
ここで注意が必要なのは、12ステップに取組む多くの人々が自分自身が霊的に目覚めていることを認識していないということです。
認識していなければ保持することは不可能です。
財布の中にいくら入っているかを知っている人だけが、財布の中からお金がなくなったことを気づくことができるのと同じです。
①日々の棚卸しをし続けることによって
徹底した棚卸しをやって性格上の欠点が何かを知ることにより、自分の中にあった恨み&怒り・後悔・罪悪感・恐れなどのマイナス感情はなくなりました。
このなくなった状態を維持するためにはステップ10の日々の棚卸しをやり続けることがどうしても必要です。
ありのパパの個人的体験ですが、日々の棚卸しをやる前は激おこプンプンで「今回ばかりは私は悪くない。相手に問題があるに決まっている!」と思い込んでいるのです。
しかし日々の棚卸しを始めるとわずか数分で「何だ。今回も私に問題があったじゃないか!」ということに気づくのです。
そして憑き物が落ちたようにさっきまで激おこんプンプン丸だったのになぜだか笑えてくるのです。
このような営みを繰り返していると、段々と「今回も私に問題があるんだろうな。さぁ、日々の棚卸しをやっぺ」というふうに変わってきます。
②神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求めることによって
ステップ3で神に委ねた自己意志はステップ11で神の意志として戻ってきます。
自分の意志・計画・願望を放棄して、神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求めます。
すぐに神の意志を知ることができない時は、現場に出続ける、自分の責任を果たし続ける、自分にできることをやり続けます。
そうしてしばらくして振り返ると神が大きなことを成し遂げてくださったのを知ることができます。
③メッセージを運ぶことによって
今苦しんでいる人々に「霊的に目覚めることこそ、依存症からの唯一の解決策である」ことを伝えます。
私たちが第一にメッセージを運ぶ場所はミーティング会場です。
いつまでも泣き言と毒吐きに終止するのではなく、経験(12ステップに出会う前の自分はどうだったのか)と力(12ステップに取り組んで自分はどう変わったのか)と希望(これからどう変わり続けていきたいのか)を語りたいものです。


5.未解決の自分の問題に手を付ける
「12ステップによってどのぐらい自分の問題を生きている間に解決することができるだろうか?」という強い意欲を持ちましょう。
ありのパパを含めて「スリップさえ止まってれば、それでいいんだ」という本音があることは認めます。
しかしそこに留まっているなら、執行猶予が切れ掛かった罪人のようになります。
ありのパパが複数の依存症を持っているせいかも知れませんが、其々の共同体の中を見ているとその共同体が問題にしている嗜癖からは回復していても、その他の問題(たとえば感情の爆発・性的領域での問題)がそのままになっている人が多いと感じます。
医療関係者の間では、アルコール依存症者や薬物依存症者がスリップが止まったあとで速やかに他のライトな依存症(ギャンブル・性・摂食・買い物・感情)に移行していくのは周知の事実のようです。
このようなことがあってはなりません。
これを防止する唯一の方法はステップの6と7に徹底して取組むことです。
性格上の欠点をそのままにしていて、変わり続けることなど不可能です。
そして変わり続けていないなら、、スリップは必定です。
なぜなら依存症は治らない病気であり、自転車操業のようなものだからです。
前に進んでいないなら、倒れるほかはないのが、私たちの定めです。
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◎回復と平安を祈っています。