依存症は人を信頼できない病とは、どういう意味か?

依存症を「人を信頼できない病」と定義する治療が驚異的な回復率を上げています。
それを指導している医師が書いた書籍をご紹介します。

        

1.明白な生きづらさと暗黙の生きづらさ

明白な生きづらさとは、極度の貧困、耐え難い肉体的・精神的暴力にさらされ続けることを指します。

暗黙の生きづらさとは、両親の夫婦仲が悪く、家庭に安心を感じられない、学校におけるいじめ、家庭における養育者の不在(長時間、子どもだけで過ごすなど)などを指します。

        

2.明白な生きづらさと暗黙の生きづらさでは罹患する依存症が異なる

明白な生きづらさの場合はハードな依存症に罹患する傾向があります。(覚醒剤などの違法薬物中毒)

暗黙の生きづらさの場合はソフトな依存症に罹患する傾向があります。(合法薬物の依存症、買物依存、ギャンブル依存など)

        

3.信頼障害とは何か?

子ども時代に大人を信頼することができなかった場合、その子どもは大人になってからも他者を信頼することが出来ません。

子ども時代に泳ぐ方法を身に付けた子どもは、大人になってからも当たり前のように泳ぐことが出来ますが、子ども時代に泳ぐ方法を身に付けることが出来なかった人は、大人になってから自分で泳ぐ方法を身に付ける必要があります。

これは「泳ぐ方法」という目に見えるテクニックですので、誰にでも理解できる理屈です。
しかしこれが「人を信頼する」ということになると、話は簡単ではありません。
なぜなら「人を信頼する方法」は目に見えないからです。

子ども時代に人を信頼するすべを身に付けた人は「自分は子ども時代に人を信頼する方法を身に付けた」などとは思っていません。
なぜなら無意識のうちに身に付けたからです。

人を信頼するすべを身に付けることが出来なかった人も「自分は子ども時代に人を信頼する方法を身につけることが出来なかったから、大人になって身に付ける必要がある」などとは思っていません。

それで人が信頼できないまま社会生活を送ることになり、人との関係を結べないままストレスをため、そのストレスに耐える手段として「ある特定の物」「ある特定の行為」に嗜癖し、結果として依存症になってしまうというわけです。

        

4.感情表出訓練とは何か?

自分の感情を表すことを感情表出訓練と呼びます。
自助グループはまさに感情表出の訓練の場として最適です。
そのためにはまず、感情と依存症の行動化(アクティング・アウト)の関係を理解することが大切です。

自分の感情に気づき、今までのように「物」や「単独行動」に依存するのではなく、「人」にSOSを出すという新しい対処の仕方を繰り返し練習することが、依存症者本人の成長を促進していきます。

        

5.ティーンエージャーの依存症

子どもたちが反社会的行動に走る動機は、欠けた心の穴を埋め合わせ、恨みや孤独感といった意識したくない感情から目を背けるためです。

これとは反対に過剰適応というタイプの子供たちもいます。
彼らは養育不全家庭で育っています。
親の役をこなすことが出来ない者を憐れみ、かわいそうに思い、自分がその役を果たそうとしました。

しかし、その努力の限界はやすやすと突破されます。
なぜならそれは彼らが子どもにすぎないからです。

そうなったとき、彼らはゲームに没頭したり、ネットで不特定他者とつながったり、お菓子を過食したり、リストカットをするようになります。
これらの原因は、自分を苦しめている孤独感や不安感という辛い感情から自分の意識を逸らすためです。

10代後半になると、もっと手早く効果的に意識をそらしてくれる物と出会うようになります。
それがアルコール、たばこ、薬物などです。
彼らの心には「だめ。絶対」という言葉は決して届きません。

「止めなさい!」と言われて止めることが出来るのは、目をそらしたくなるほどの辛い感情を抱えていない者だけです。

        

6.なぜ信頼障害が依存症に繋がるのか?

彼らは「違法な浮き輪」に困っているのではありません。
泳げないこと自体に困っているのです。
そうであるのに「だめ。絶対」とか言って、その浮き輪を手離すように命じるのはいかに的外れな対応でしょうか?

彼らが願っているのは、泳げる方法を知ること、そしてその方法をマスターすることです。

依存症の根本原因は、人に信頼できない幼少期から始まり、信頼しようとする対象が人から物へ移行するために起きます。

「だめ。絶対」から「あなたは一人じゃない」「助けてくれる人が必ずいるから相談しよう」へとスローガンは変更されるべきです。

        

7.依存症の回復の実際

アルコールの場合は必ず底つきがあります。
アルコールを過度に飲み続けると、いつかは救急病院に運ばれるなどして社会生活に不便を味わうときがやってきます。

この不便さが「アルコールの良い面よりも悪い面のほうが上回っているかもしれない」と思わせるきっかけになります。

内蔵や末梢神経が壊れることの少ない覚醒剤依存では救急病院の代わりを果たすのが警察の逮捕という出来事です。
拘留によって社会生活が送れなくなると、それがきっかけで「困り感」を持ち始める可能性が高まります。

        

8.なぜ薬物使用者を刑務所に入れてはならないのか?

薬物使用者に真に必要なことは「薬物を使わないでも生きていく方法」です。
それは泳げない人に泳ぎ方を習わせ、違法な浮き輪にしがみつかなくても良いようにすることです。

もちろん刑務所内で薬物からの回復プログラムを学ぶこともある程度有益ではあります。
しかし考えてほしいのですが、絶対におぼれない保証のある環境で習った泳ぎが、実社会においてどれほどの効果があるかということを。

薬物犯の再犯率が50%なのは、このような事情を反映しているのです。

アメリカの例

アメリカには薬物裁判所(ドラッグ・コート)があります。
刑務所に入れる代わりに治療プログラムを強制的に受けさせ、定期的な尿検査なども受けさせます。
刑務所に入れる場合の費用の11.5%ですむこともあり、全米に広がり、現在では1500カ所を超えるということです。

この書籍は普通に買えば二千円ですが、キンドルアンリミテッドを活用すれば980円で一ヶ月の間読むことができます。

◎回復と平安と祝福を祈っています。

        

新しい記事を見逃したくない方はメール登録をどうぞ!

登録ボタンを押すと届くメールの【フォローを確認】をタップして登録完了です。

タイトルとURLをコピーしました