今日は「パーソナリティ障害いかに接し、どう克服するか」をご紹介する2回目です。
ところで、アダルトチルドレンという言葉はアメリカの保健分野から生まれた言葉です。
そのゆえに病気として取り扱われてはいません。
しかし、今日の記事を読んでいただくと明らかであるように、あと追いで精神医療の分野から別の名前をつけられて出てきました。
健常と病気を分ける分水嶺(ぶんすいれい)は社会生活に支障があるかどうかです。
支障がなければ、それは個性として扱われます。
個性の場合を「人格」、病気として取り扱う場合を「人格障害」として表記します。
(この記事の中では、大見出し以外は「パーソナリティ」という言葉を使わず「人格」という言葉を使っています。なお、この二つの言葉は同じ意味です。)
目次
1.境界性パーソナリティ障害(愛をむさぼる人々)
①特徴
「この人格障害の特徴は、最高と最低の両極端を往復するということである。それは気分の変化と対人関係において現れる。」
うつ病とのちがいは、うつ病における「最低」には持続性がありますが、この人格障害における最低は長続きしません。
「愛情飢餓を満たしてくれる人を常に求めている。
そのため、恋人を両親の代理にしたりする。
しかし、いつかは当人の過大な期待に応えきれないときがやってくる。
そのとき、本人は大きく失望し、怒りを感じる。
怒りのため、復讐行動にでる場合があり、後味の悪い幕切れへと向かわせる。」
「こうした対人関係のパターンを繰り返す中で、本人も周囲の者も、傷つき疲弊してしまう」
この両極端に揺れ動く原因は、深刻な愛情飢餓と病的な見捨てられ不安です。
そうした心理が、様々な病的な行動化(アクティングアウト)を引き起こします。
注意しなければならない点は、これは人々の関心を引くためのお芝居ではないということです。
本人も、そのように行動する真の理由に気づかずに必死になって行動化しているのです。
では、そのような深刻な行動化に駆り立てる原因は何でしょうか?
それは「深い自己否定感を抱いている」ということです。
この自己否定感のゆえに、少しでも優しい言葉をかけてくれる人がいれば、あっさり身体を許したり、後先考えずに結婚してしまったりすることがあります。
自己否定感を感じないためには、自分を紛らわすための刺激を必要とします。
これはACの特徴である「私たちは刺激に嗜癖するようになった」というのと、とても似ています。
この自己否定感の出所は、親との関係にあり、幼児期からの生育歴の中で植え付けられてきたものです。
親への切実なこだわりのゆえに、大人になっても親との関係から卒業できないという特徴を併せ持っています。
アメリカのデータでは全人口の2%、精神科クリニックに受診する患者の約10%に、この人格障害を認めることができるそうです。
なお、この人格障害は女性に多く見られ、男性の約三倍の頻度です。
②この人格障害の人への接し方のコツ
態度を変えないことが最大の支えになります。
いい顔をしたいという下心で接すると、結局は相手を失望させますから、病気の特質である「人は結局は自分を見捨てるのだ」という間違った思いこみを強化させてしまうことになります。
変わらない態度を長期間にわたって取り続けることが、この人格障害の人にとっては何よりの援助となります。
この人格障害の人は受診後10年で、約半数の人が回復を見せています。
決して不治の病ではないのです。
③どうやって回復していくか?
「人とつながる力を細く長く培っていく。
一遍にではなく、じっくりと培っていくことによって。」
「人のせいにしたり、他人に頼っている限り、回復しないという現実を受け入れ、自分で自分の問題を引き受けるという自律的行動によって。」
2.自己愛性パーソナリティ障害(賞賛だけが欲しい人々)
①特徴
この人格障害の人は「(人と比べて)自分は特別な存在」と根拠なく思っています。
それで、人は自分を特別扱いするのが当然であると考えます。
この途方もない特権意識が、社会の中で様々なトラブルを生むことになります。
この人格障害の人は非難されることに非常に弱いです。
これはACが「私たちは人が怒っていたり、何であれ個人的な批判を耳にするとおびえてしまう」のと似ています。
この人格障害の特徴は、非難されると烈火のごとく怒り出すのだが、その非難を受け入れざるを得ないと悟ると、ひどく落ち込むというものです。
その故に、自己愛性人格の人は他人に教えられるということが苦手です。
この人格障害の人が求める人々には二種類あります。
一つは賞賛だけしてくれる多数の人々。
もうひとつは、現実生活では無能力な面を持つ自分のために世話をしてくれる少数の人です。
これは結局、他人は自分のために存在するべきものであり、用がなくなればポイ捨ての対象になるということでもあります。
その故に他者に対する敬意とか配慮といったものは、ほとんどありません。
他者に対して搾取的な人格障害に、反社会性人格障害がありますが、反社会性人格の人ほどは露骨ではありません。
しかし、それは外面の現れのちがいにしかすぎず、内面では反社会性人格の人と同様です。
境界性人格が女性に多いのに対して、自己愛性人格は男性に多いようです。
②原因
幼少期は愛されて育ったが、途中で親が亡くなったりして、愛情剥奪(はくだつ)体験をしていることがあります。
味わった屈辱的体験を他者からの賞賛で埋め合わせようとするか、傲慢さという鎧をまとうことによって、脆弱な自我を守ろうとしてきました。
③接し方のコツ
この人々の誇大妄想を否定せず受け入れることです。
そして(この人々は小心者なので)「このように接しないと恥をかく」と、さりげなくささやくだけで有効な動機付けとなります。
④回復の方法
他人の忠告に真摯に耳を傾けることです。
自己愛性人格の人々はたいていは生活における処理能力に問題があります。
だから、そのような雑事を難なく片づける能力を持つ人をパートナーにすることです。
3.演技性パーソナリティ障害(主人公を演じる人々)
①どのような人々か?
天性の誘惑者にして嘘つきです。
この人格を持っている人々の本質的なとらわれは、他人を魅了しなければ自分が無価値になるという思い込みです。
そのために、自分が自分自身であろうとするよりも、周囲にアピールする役柄を演じることが優先されてしまいます。
その役柄は人もうらやむヒロインだったり、かわいそうな犠牲者だったりします。
これもACの特徴である「私たちは人生を犠牲者の視点で生きていて、そういう弱さによって恋愛関係や友情関係で人に引きつけられる」とあるのと似ています。
他者の賞賛を得ようとする自己愛性人格とのちがいは、他人を魅了するためなら自分をおとしめるようなことや傷つけることも平気でやってしまうところにあります。
その意味で、演技性人格は自己愛性人格よりも不安定な要素を含んでいると言えます。
生身の自分で勝負するのではなく(それほど自分を愛していないから)、幻の自分を作り出し、そこで勝負しようとします。
そのため虚言が、この人格障害の人にはよく見られます。
②接し方のコツ
演技性人格障害の人を敵に回すと、常識的な人のほうが悪者にされてしまい、負けてしまいます。
従って、本人との関係を維持するためには、その演技や嘘に気づいても、面と向かっては指摘しないのが原則です。
しかし、深い人間関係を築くためには、その嘘や演技的な態度に振り回されないことが重要です。
もし振り回されてしまえば、その人の病的傾向を強化してしまうことになります。
③回復のポイント
自分自身と対話する時間、すなわち内省の時を持つことが有効です。
4.反社会性パーソナリティ障害(悪を生きがいにする人々)
①特徴
このタイプの人の特徴は他の人を冷酷にむさぼることです。
妄想性人格の人には、他人を信じられないながらも信じてみようとする葛藤があります。
しかし、反社会性人格の人には、そのようなことは全くありません。
そのようなわけで、この人格の人は他人に裏切られても傷つくことは決してありませんし、裏切られる前に裏切ってしまいます。
こうした人物にとっては恋人も友人も利用し、搾取する対象でしかありません。
恋人に売春させたり、風俗で稼がせている間、自分はギャンブルをしたり、他の女を引っ張り込んだりということは、彼らにとっては朝飯前(あさめしまえ)です。
②原因
親との関係に問題があります。
親に存在を否定されるような扱いを受け、親のエゴを押しつけられることによって、親に対して強い恨み・復讐心を抱くようになります。
しかし、その復讐心は直接、親には向かわず無関係の弱い人々に牙をむくことになります。
これは表面的には親を憎み、反抗しながらも、心のどこかでは親に承認を求める心情が隠されているからです。
これはアダルトチルドレンの親に対する心情と共通のものがあるように思えます。
③接し方のコツ
この障害の人は、生まれてからこの方ずっと否定され続けてきました。
ですから、できるだけ否定的な対応を避けることが原則になります。
相手が挑発してきたとき、それ自体に反応するのではなく、「何かあったの?」と背景に目を向けることが大切です。
このようなやりとりを根気強く続けていくとき、相手の心がほぐれ始めます。
挑発に乗らないことが、信頼関係を築く前提となります。
④回復のきっかけ
責められると反発するが、赦されると自分の悪に気づくという原理が、反社会性人格の人にも当てはまります。
もうひとつは、人間は欲得だけで生きていけるものではなく、死に向かっている存在であるという自覚です。
これは身近な人の死がきっかけになることが多いようです。
5.妄想性パーソナリティ障害(信じられない人々)
①特徴
親密な関係において、常に裏切りを恐れます。
はじめは自分に関心を示すものに対して警戒的だが、いったん心を開くと今度は単なる親切を親密な行為と解釈します。
このタイプの者は、自分の勝手な思い込みが相手の期待はずれの反応に裏切られると、今度は逆恨みに向かいます。
「殺すぞ」とか「火をつけるぞ」と脅かしたり、それが現に実行されることもあります。
性格はねちっこく、執着傾向が強いです。
②原因
人生のどこかで他人に対する恐ろしさと信用できなさを刻み込まれる体験をしているようです。
③接し方のコツ
このタイプの人とつきあう場合、みだりに親しくなりすぎないことが重要です。
親しくなっても、ほどよい距離を取ることを忘れてはなりません。
親しくなって、こころを許した素振りを見せることは、このタイプの人とつきあうときは致命的な誤りとなります。
どんなに親しい関係にあっても、ほんの些細なことであっても、それが彼にとって不利益なことであった場合、その関係は即座に終わりを告げ、猜疑心と怒りの日々が訪れることになります。
6.依存性パーソナリティ障害(一人では生きていけない人々)
①特徴
自身の主体性を放棄し、他者にゆだねてしまってることです。
この人格の人は、自分で決めるのが苦手です。
また一人でいるのが苦手であり、いつも誰かと一緒にいないと不安になったり、空虚感を感じたりします。
この人格の人は、相手に見捨てられることを恐れて、自己主張を抑えてしまいます。
我慢しているうちに、自分は本当は何を望んでいるのかさえ分からなくなってしまうこともあります。
このタイプには二つの型があります。
一つは文字どおりの依存型で「赤ん坊型」です。
もうひとつは「献身型」とでも呼ぶべきタイプです。
赤ん坊型が受動的な依存であるのに対して、献身型の依存は能動的です。
しかし、依存的であることに変わりはなく、病的です。
このタイプの人は仕える相手を間違えたと薄々気づいても、自分からはその関係を容易に清算できません。
②接し方のコツ
代理人にならないことです。
この人格の人は、相手に判断することを委任します。
そのような代理行為を請け負っていると、本人の現実対処能力をますます低下させます。
ですから、そのような相手の傾向に気づいた段階で、失敗してもいいから本人に決断させるようにし向けることが大切です。
このタイプの人の決まり文句は「結局、どうしたらいいの?」です。
このように正解をほしがりますから、答えを言わないアプローチに徹します。
「あなたはどうしたいのか?」「あなたはどうすればよいと考えるのか?」
③回復の道
自分の気持ち(感情)を口にするのを習慣にすることです。
また、職業は奉仕の色彩が強い仕事を選ぶことが回復につながります。
なぜなら、仕事であるなら際限なく奉仕を求められることがなく、また一定の満足感を与えてくれるからです。
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